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名無しさん@ピンキー
2025/03/29(土) 19:57:51.03 ID:rBCZYcAH
ワードナ率いるヴァンパイア軍団や、ローグ、オークその他のモンスターに凌辱される女冒険者たち。
プリーステス、ウィッチ、サキュバス、獣人などの女モンスターやNPCを凌辱する冒険者たち。
ここはそんな小説を読みたい人、書きたい人のメイルシュトローム。
凌辱・強姦に限らず、だだ甘な和姦や、(警告お断りの上でなら)特殊な属性などもどうぞ。
過去スレその他は、>>2-10辺り。
108
名無しさん
2025/08/24(日) 18:34:03.78 ID:Pnqkk6dR
俺の背中を擦るサーシーにホリーが、伸びきった小さな声で「申し訳ない」と言った。
「ホリー、あなたがわたしに謝る必要はないんですよ」
そうだよ。まず俺に謝ってくれ、ホリー。
「心ひゃいすんなぁ、おれたひゃあんたの味方だ」
歯抜けで甲高いキーキー声で話すダーが臭い息吹きかけながら俺の横でまくし立てた。
格安ソフトドラッグで常時ラリっている標準的な底辺所得者のノームだ。そうだな、ダー。
お前にいくらタカられたか、もう覚えてねえよ。左手は手袋で隠しているが、こいつの手には
指輪が四つ吸い付いてる。ヤクをキメ続けなきゃやってられないんだろう。俺に金を無心しに
くるリストのナンバーワンだ。しかも一度も金返さねえし。せめてこの前の50ゴールドだけで
いいから今返せ。
「あんちゃんみひゃいな素敵な金蔓がなくなるなんてみへられねぇ。おれに任せろ」
堂々とふざけた宣言してんじゃねえ。これはお前がなにか頑張ってどうにかなる問題じゃないの。
「下らないやらかししたって自覚してるなら、悔い改めなさい」
俺の背中を擦りながらサーシーが言った。子供に向かっていうような口調だ。
すいません。ほんとすいません。生きててごめんなさい。
「まあ素直な感想を言ってもいいなら、『舗装道路』しか歩いたことのないお嬢ちゃんには良い
お灸だったんじゃないですか。その程度で済んだんだし。守ってくれるお姉さんもいて、
強い仲間もいて、恵まれすぎてたんですよ。あなたの女主人の同僚たちなら何とも
思ってないですよ。あなたの女主人のほうは存じ上げませんけど」
彼女なりに気を使って言っているのだろうが、情けなさすぎて俺はサーシーと目が
109
名無しさん
2025/08/24(日) 18:35:06.96 ID:Pnqkk6dR
「彼が酷いわけじゃないですよ、仕方ありませんもの。他の人たちも大抵そうします。
ポーやモリスだって。クーポーは気にしてないみたいですね。あの人は顎にシーツも
被させないですよ。終わったら食べ物をくれます。時々金貨も。わたしはルースや
レイチェルみたいにお店に入れないですもの。だからわたしは生きていけたんです。
女が冒険家業をやるというのは、そういうことなんです」
俺は桶にまた吐いた。サーシーはあいかわらず背中をさすり続けてくれている。
彼女は慰めてくれるつもりで言ったのだろうが、俺はショックを受けていた。
「だからそんなに落ち込まないでくださいね。反省はしてほしいですけど」
サーシーは皆に細かい指示をとばすベランをみて目を細めた。
「あの人にはずっと避妊処置をお願いしてました。彼は全部ツケにしてくれてたんです。
ある日計算してみたら、払いきれないと分かって、わたしは謝罪をしました。よっぽど
ひどい嘆き方だったんでしょうね。ベランはわたしに金庫番の仕事をくれたんです。
仕事中は必死になってDIOSを唱えてました。日に日に金貨が増えていって、仕事を
始めたばかりのころは怯えてました。今だって慣れないですよ。ベランがこんな
サプライズしてくれるなんて思ってなかったんです。ダーもマイクも一緒にお祝い
してくれました。二人はわたしの同僚なんですよ。わたしのせいで稼ぎが減ったのに、
二人はワインをプレゼントしてくれたんです。二年ぶりに、何もこぼさずに飲めました。
お酒は苦手ですけど、あんなにおいしいワインを飲んだのは生まれて初めて」
粋なことすんなあいつら。まてよ、この前の50ゴールドはそれか。
用途を言えよあの野郎。あいつに金返せって言えなくなっちまったじゃんか。
110
名無しさん
2025/08/24(日) 18:36:40.04 ID:Pnqkk6dR
俺が便所と自室を往復している間に、俺の部屋は空瓶でいっぱいになった。
「追加はもう無いのか?」
ベランが部屋を見渡しながらいうと、マイクが首を振った。
「駄目だ。宿屋の出口が封鎖されている。もう出られないし入れない」
下痢と嘔吐が止まらない俺に回復をかけながらベランは首を振った。
「クソ。新しい桶が必要だな」
「捨ててくるわ」
「おれが行く」
マイクが名乗り出ると、ダーが黙って立ち上がり、右手の使えないマイクの
補助をした。俺の吐瀉物でいっぱいの桶を、二人は持ち上げようとしたが、
すぐに床に置いた。
「げえっ、こりゃロープがいるな」
「しゃがしてくる」
ベランが俺の背中を擦りながら言った。
「マズルとホリーはどうした?」
「おれはここにいる」
マズルが手を上げた。
「出口が封鎖されたのはさっきだ。おれとトビーで外の足跡を消しに行った。
見張りのガースがいつも通りサボってくれてよかったよ。うまく誤魔化せたと思う。
ホリーとは少し前にすれ違いになった。裏口からはもう帰ってこられない」
111
名無しさん
2025/08/24(日) 18:43:27.85 ID:IZDKWqyN
私は道中ずっと自分の直感が正しいのか考え続けていた。あの部屋で
ドア越しに聞こえた音。気配。どこかで感じた覚えがある。一人の男の可能性が
突然頭にふっと思い浮かんだ。最初はありえないと思い直したが、
時間が立つほどに絶対にあの男だと強意見する頭の何処かの声が、無視できない
ほど大きくなっていった。
彼にそんな力がないことは理解している。でも私は自分の勘を信じてみることにした。
この第六の感覚には今まで何度も助けられてきた。こういう一大事で外れたことがない。
A Cotと書かれた看板が見える所まで来ると、遠目に、手の妙なところに剣が
吸い付いた小人とその介添が、二人で大きな桶をいくつも重ねて歩いている姿が見えた。
二人のうちの一人と目が合った。小人たちは自分を見ると、不自然なほど焦りながら姿を
消したように見えた。それは何の根拠もなかったが、自分の中で予感が確信に変わるのを
感じられた。
怒りに震える感覚は久しぶりだ。それでも頭の中は驚くほど冷静だった。
神経を集中させて、A Cotの看板が掲げられた突き当たりの通路を曲がった。
いつもの廊下は、不思議なほど静かだった。ドアはどこも開けっ放しで、簡易寝台の
どの部屋もベッドは空だった。奥の部屋に近づくにつれて騒がしい音が聞こえてきた。
鑑定屋の男の部屋は、彼の友人たちと思しき人々が集まっていた。こちらの姿を見た
人混みから歓声が上がった。廊下でいつもすれ違う飲んだくれのエルフが、酒瓶片手に
手を振って、艶めかしく手招きした。
112
名無しさん
2025/08/24(日) 18:45:09.92 ID:IZDKWqyN
普段見慣れない町娘のような格好で、くノ一は俺を見下ろしていた。妹さんとお揃いの服だ。
顔を直視できない。抑えていても、気配から凄まじい怒りを感じる。
「どうして私がここに来たのか、ご存知かしら?」
はい。俺を殺すためですね。わかります。
「今しがた宿屋の警備が厳しくなったのは知ってるかしら。私の部屋に怪しい男が入ったせいよ」
なんて答えたらいいんだよ……程々に元気よく、しかし不審になりすぎない程度の絶妙な
音量によるシンプルな回答が一番だな。
『ばい』
ヤクの過剰摂取とゲロ吐きたての喉で声が出ねえ。
「宿屋の主人が発表した罪状はロイヤルスイートの窓ガラスの破損。彼に言わせれば大事件だそうよ」
『……ばい?』
……はい? 何言ってんのあの親父。馬鹿じゃないの。婦女暴行事件のほうがオオゴトだろがあ?!
「それで」
言葉の途中で、くノ一は両手を組み合わせたまま腕を下ろした。俺の様子をずっと見ている。
どうする俺。どうする俺? どうすんだ俺! またゲロ吐きそう。もう胃の中何も残ってないのに
内臓まで全部吐きそう。薬なんて使うんじゃなかった。
ごめんなさい。なんてことしでかしたんだ俺。どうしよう、俺何回死んだら許される?
だめだ、もう持たん。もう自白するしかない。
* * *
113
名無しさん
2025/08/24(日) 18:46:48.22 ID:IZDKWqyN
ざわめきが遠のき、頭は呆然としていて足だけが動いていた。
無力感に押しつぶされそうだった。もう自分の勘は頼りにならない。
指はとっくの昔にガラクタだ。自分にはなにもない。
腕っぷしはある方だと思っていたのに、何の役にもたたなかった。
親友も仲間も肉親も、誰も守れなかった。
A Cotの看板を曲がると、そこには宿屋の主人が立っていた。
「やあ、お嬢さん」
主人は口を緩めて言った。笑顔だが、目には殺気がこもっている。
「収穫はあったかい?」
私は小さく首を振った。
「あてが外れちゃった」
言葉と同時に、自分の中から何か大切なものまで抜け落ちるような気がした。
「どいつだ?」
ぎらついた目で主人は言った。
「一番奥の部屋の人」
「へえ」
初老の男は口元をすこしだけ緩めた。
「失礼だが、あなたがあの男を疑った根拠を伺いたいものですな」
「根拠もなにもないわ。でも……あの時、ドアの向こうから音が聞こえたの。
114
名無しさん
2025/08/24(日) 18:48:31.70 ID:IZDKWqyN
くノ一がもう安全だという距離まで離れるのを確認する間、俺の共謀者たちは
ヤケクソでお祭りの演技を続けていた。彼女が本当に立ち去ったことを斥候役の
マイクが宣言すると、演技じゃない本当の歓声が湧き上がった。
それからなし崩し的に飲めや騒げやの突発的な祝賀会に発展し、やっと静かに
なったのは夜も更けきる頃になってだった。なんやかんや世話を焼こうとする
ご近所をなんとか丁重に追い返して、俺はベッドの上で意識朦朧としながら
相変わらずゲロ桶を抱えてぐったりとしていた。ベランの話では毒が抜けるまで、
とにかくどこからでも良いから出し続けることが治療だそうだ。
部屋には同業者連中の手によって大量の水瓶が届けられた。
深夜に差し掛かる頃に、俺の部屋をノックする音が聞こえた。
もうお見舞いはいいよ……頭痛がひどすぎて眠れない。頼む一人にしてくれ。
二回目のノックで、俺は目をかっぴろげた。A Cotの住民がやるようなノックじゃない。
くノ一でもない。なんとか体を起こして、俺はジジイのような足取りでドアに向かった。
ドアを開けると、そこにいたのは宿屋の主人だった。
俺の思考は完全に停止した。
やばい。ばれてた。今死ぬのか俺。
「ブック」
『ぐえぇあ? ぁばい』
115
名無しさん
2025/08/24(日) 18:50:36.61 ID:IZDKWqyN
それから数日間、俺のまともな記憶は無い。吐いたり下痢したり、
なんだかわからないスープのようなものを飲まされたり、それだけだ。
あの薬が完全に抜けるには、それだけかかった。ベランに言わせれば、
すぐにクレンジングオイルを使わなきゃこんなものじゃ済まなかったそうだ。
頭と金玉と財布がすっからかんになって、俺はようやく本当の正気になる
ことができた。
食事は同業者たちが代わる代わる運んできた。ありがたいより情けない
気持ちでいっぱいだ。二日目になって、俺は運んでくる連中の変化に気がついた。
「マイク?」
俺は一人でスープの盆を運んできたマイクに声をかけた。マイクの手には、
もはや体の一部と化していたあのショートソードがなかった。俺は右手を持ち上げて、
左手の人差しで何度も叩いて見せた。
「おや、今頃気づいたかい旦那」
マイクは自慢げに、指を広げて振ってみせた。掌は一面青黒い痣になっているが、
マイクの右手には何も付いていない。
「あんたのゲロを始末し続けたおかげさ」
マイクは肩に斜めがけに吊るした聖布の包を指さした。間違いない。
布に包まれているがマイクの手に吸い付いていたショートソードだ。
そうか、クレンジングオイルは本来そういう使い方をするもんだった。
「ホリーは感謝していたぜ。トビーやマズルもだ。A Cot中の鑑定士がみんなが
116
名無しさん
2025/08/24(日) 18:52:05.07 ID:IZDKWqyN
彼女との再開日の前夜は眠ることができなかった。
わかっている。おそらく、あの三人のうちの誰かは確実に俺を殺すためにくノ一には
真実を知らせるはずだ。あるいは本人が自らの手で俺にとどめを刺すつもりだろう。
眠れないまま、俺は横にもならずベットに腰掛けていた。
ここ数日間で体中の水分と栄養はほとんどケツとゲロから流れ出た。身体は重だるく、
脳みそは完全にガラクタに成り下がっている。俺は明け方前にうつらうつらしだした。
よりによって今眠気が来やがった。なんとか朝まで粘るために、俺は椅子に座り、
ぼんやりテーブルを眺めていた。
体を揺すられて、俺は目を覚ました。いつの間にか朝だった。
机に突っ伏したまま寝ていたらしい。横を見るとフラウドがいた。
「大丈夫ですか、先生?」
「起きなさい、お寝坊さん。朝食の時間よ」
正面にはくノ一がいる。二人とも笑顔だ。
あれ、なんだこれ、夢?
走馬灯って実際に起ったことだけじゃなくて都合の良い妄想も見ることができんの?
ガシャンという音とともに俺を乗せたまま椅子が引かれた。のけぞった俺の両肩に
ずっしりした何かが乗った。
恐怖にかられて横目で見る。
Gloves of Silver、売値30000ゴールド、オーケイ。
117
名無しさん
2025/08/25(月) 05:37:09.80 ID:Z3zlQbG+
くノ一がフラウドと先に俺の部屋から出たタイミングで、俺は自分の浅はかさを思い知った。
俺は歩き出そうとしたが一歩も動けなかった。三人は俺をその場に押さえつけるために
取り囲んでいただけだった。
俺が全てを理解する前に、シャイアは俺の手の甲の肉が千切れんばかりにつねり上げ、
フローレンスさんが銀の小手で肩甲骨に穴が空きそうなぐらい肩を締め上げ、足の甲を貫通する
勢いでグリーブの鋭い踵が降ってきた。
激痛が走った。立っていられない。俺は力のかぎり叫んだ。が、音が出ない。
痛みでしゃがみたいのに妹さんが肩を引き寄せてしゃがませてくれない。
妹さんに支えられた肩から下は、壊れた操り人形みたいにぶら下がっているだけだ。
しまった、シャイアの鼻歌はブラフだ。妹さんがハミングに偽装したMONTINOを唱えていた。
「心配ない。傷あと、のこさない」
悶絶しそうな痛みがいきなり引いた。チビが入口に向かってスタスタ歩きながら
俺の方を見ずに言った。妹さんは素早く俺の肩を持ち、俺の耳に唇がふれんばかりにところで、
息を吹きかけるように呟いた。
「行くぞ。リーダーを待たせるな」
胃が溶け落ちたかもしれん。もうこの部屋から出たくない。
シャイアは俺に向かって指を立て、シーと音を出した。
「殺しゃしないよ。話があるんだ。逃げるなよ」
両脇をシャイアとフローレンスさんにがっちりと捕まえられて、俺はA Cotの廊下を歩いた。
いつも通りの陰気な雑踏が聞こえる。みんな視線を合わせないように俺を見ていた。
118
ここまで
2025/08/25(月) 05:44:47.16 ID:Z3zlQbG+
SS投下する人は16レスを超えるとスレッドに書き込めなくなります
こんな長文だからかもしれんけど気を付けて
>>101
ダフネ未履修なんで力になれなくてすんません
ところで石鹸エルフについてもう少しくわしく
119
名無しさん@ピンキー
2025/09/07(日) 21:14:52.00 ID:nUf3X3ob
鑑定士の人来てたああああ!!!
ちょっと最初から読み直してくる→→→
120
名無しさん@ピンキー
2025/09/24(水) 10:34:58.27 ID:o8Pj9BWq
鑑定士の
121
名無しさん
2025/09/28(日) 11:04:41.37 ID:7sQEeiv4
投下します。NGワードは鑑定士またはトリップで回避をお願いします。
122
名無しさん
2025/09/28(日) 11:08:34.53 ID:7sQEeiv4
逃げるチャンスは皆無だった。
酒場へ連行された後、シャイアは「先に個人面談させてよ」と言い、残念なことに
くノ一は快諾した。シャイアは朝食会の席から見えない、壁一枚挟んだ向こうの席に
俺を引っ張っていった。
パーティの席から死角になった途端、シャイアは他所行きの笑顔から突進する
ゴーゴンみたいな面になって、俺を睨みつけながら「座れ」と命令した。俺は素直に従った。
俺たちが座ったのは壁付けの長机席だった。隣同士席についた途端、シャイアは
一言ずつ区切りながら、俺の肩をバシバシ叩いた。
「あやうく、みんな、死ぬとこだったんだぞ!」
「い、あ、大変申し訳ありません、本当にすみません、反省してます」
シャイアは見下したような目で俺を見つめた。
「やっぱ薬盛ったのお前か」
「え? あっ、あっ!」
やっべ。自白しちまった。
「こ、この度のことは本当にすみませ――」
「ばあーか!」
シャイアは俺の頭を叩いた。たいして痛くないがベソかきそうな声で「痛いです」と訴えた。
いやまあ俺が全面的に悪いんだけどな。
「だいたいなんで薬なんて買ったんだよ」
「酒場に売り子がいて……それで」
123
名無しさん
2025/09/28(日) 11:11:54.53 ID:7sQEeiv4
状況がちゃんと飲み込めない。ひょっとして、お、俺はかなり危ない橋渡ってたのか。
大枚はたいて、明らかに非合法の自滅する劇薬をつかまされてたってわけかよ。
「だいたいさあ、なんで窓ぶっ壊すの?」
「だって」
「だってじゃないよ子どもかあんた。前に備品ぶっ壊した君主のフレデリックの
末路知ってる? 馬小屋で半年“公演”してたんだぞ! 多分あんたへの拷問は
あれ超えてくるからね? 五大施設の管理人による本気の拷問だよ?
あんたが耐えられるわけ無いでしょ」
「……すいません」
「ふん、あのまま逃げなきゃ、あんたがリーダーに何回か八つ裂きにされる程度で
済んだのにさ」
あっ、俺が何回か死ぬことは確定だったんだな、ハハハッ。宿屋の親父の拷問は
八つ裂きにされるよりひどいんだな、ハハハハッ……
体中の毛穴が一気に引き締まった。鳥肌と寒気が止まらん。恐怖で狂って笑い出しそう。
そんなに危ない橋渡っちゃったの俺?
「薬もさぁ何でお湯にいれるの? 茶ぁ飲んで酔っ払うやついるかよ。
普通は酒にいれるの! カデ・カシスとか麝香猫亭とかで簡単に買える
もっと安全で弱いやつをさあ」
すんません、無知ですんません、アドバイスありがとうございます。
今度はちゃんと酒で使います、くノ一に。あと店名メモするんで綴り教えてください。
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名無しさん
2025/09/28(日) 11:14:43.85 ID:7sQEeiv4
「ムーのI.Qポイントは、まぁ、普段はあまり高くないんだ。いつもは会話できる
レベルだけど、時々ほんっとうにひどくなる。本人も努力してるけど、たまに、
低くなりすぎておかしくなるんだ。この街にいるんだからあんたも知ってるでしょ」
ああー……『裏返り』か。人としての体(てい)を保てる以下にまで能力が下がり
切ると、突然逆方向に振り切れるやつだな。この街特有の奇病だ。針金みたいな
ヒョロガリが突然筋肉ダルマになったり、オーク以下の白痴が人知を超えた天才に
なったりする怪奇現象だ。
「正直、今まであたしは“そうなった”ムーのことが苦手だったんだ。
でも、今回ばかりは助かったよ。あんた、あの子に前、会ったそうじゃない?」
俺は口を半開きにしたまま黙っていた。俺の目を見て、同意のサインを受け取った
シャイアは答えた。
「あの子は二年、キースの玩具箱に住んでいた。ああいう薬の最初のモルモットを
やってたんだ。あの子が今みたいになったのもそのせいよ」
なるほどな。熟練の治験経験者ね。そんなのが“裏返った”ら、治療が的確なのも
うなづける。
「もしあんたがリーダーに薬を使ってたら、ムーはあんたを拷問にかけてた。
あたしも手伝ってたと思う。あの人はあたしたち二人にとって大切な先導者なんだ。
裏返ったムーの拷問は怖いぞ。あの子は優しい人の壊し方なんて知らないからな」
俺は黙って、目線を下に落とした。頭の後ろから血の気が引くのを感じた。
「安心して、あの子ももう“処置済み”。もと通りの、まぁ、前よりちょっと悪いくらいかな。
125
名無しさん
2025/09/28(日) 11:17:38.17 ID:7sQEeiv4
俺は治療師としては駄目学生だった。学徒時代に必死に詰め込んだ知識だって、
回復呪文を覚える前に鑑定士になった俺にとっちゃ無用の長物だ。訓練場で覚えたこと
なんてもうほとんど抜け落ちた。実践で一度も使わなかった知識を覚えていられるほど、
俺には余裕がなかった。それでも俺は元司教だ。
「いいか、嘘は無しだ。マジな話だけしろ。お前は五年か六年、訓練場の独房って
ところじゃなかったのか」
シャイアの肩がビクついた。当てずっぽうだが、当たりか、クソ。図体と飲んだ量からして
そうなるよな。五種族の薬物耐性は教授によって教え方が異なる。俺がたいして覚えて
いない治療師の講義では身長と体格でほとんど決まっていた。計算式も種族別の細かな
耐性表もあったが、もう語呂合わせすら覚えていない。
「お前言ったよな? “危うくみんな死ぬところだった”って」
シャイアはうろたえた声で答えた。
「あは、ははっ、えっ言ってた? ああ、そんなのただの」
「冗談だったってか? おい、鑑定士は司教しかなれねえんだよ」
シャイアは唇を閉じて、叱られたように体をすくめた。
人の体積だけを加味すれば、エルフの妹さんは少し効きすぎなくらいに薬を飲んだ。
ホビットのこいつは明らかな過剰摂取だ。致死量飲んだはずのやつが命の灯火が
消える前にオツムだけ先に“裏返った”おかげで、危篤患者も死人もでなかっただけだ。
「俺は腐った畜生野郎だがそのくらいはわかる。ちゃんと認可医には見せたのか?」
シャイアは言葉を選んでゆっくり喋った。
126
名無しさん
2025/09/28(日) 11:20:16.83 ID:7sQEeiv4
「薬の特定は?」
「できたからあたし、ここにいる。もうあたしに聞かないで。難しい言葉ばっかりで
なんにもわかんないの。わかったのは手遅れなら手足の麻痺って言葉だけ。
怖くなった。リーダーに捨てられるって。でもほら、動くよ、ちゃんと」
シャイアは掌を見せてひらひらさせた。俺はすぐに財布から銀貨を取り出して渡した。
シャイアの顔は白くなった。俺が指示すると、シャイアは昔と同じようにコインを指に
滑らせた。
俺は注意深く、シャイアのコイントリックを眺めた。両手の指すべてを使って、
端から順にコインが指の波を滑ってゆく。掌を上に向けて最後の小指までコインが
滑ると、昔と同じように素早い動きで空の掌を俺に向けた。
「ほらね」
コインは差し出した俺の掌に戻っていた。俺はキレた声のまま言った。
「中指の上じゃない」
シャイアは明らかにうろたえた声で言った。
「や、やりなおさせて。久しぶりで、あがっちゃって」
「そうか、まあいい」
「お願い、もう一回チャンスを」
「合格」
それだけ言うと、俺は長椅子の上で伸びをした。こいつの手の神経はどうやら
無事らしい。どっと疲れたわクソアマが。青い顔のままシャイアはほっとした声を出した。
127
名無しさん
2025/09/28(日) 11:23:38.39 ID:7sQEeiv4
俺の元いたパーティでは“年功序列”に発言権があるという風習があった。
他の連中がみんな年上だった中、こいつは唯一の、俺より後に生まれたメンバーだった。血の繋がりも無いが、俺にとっちゃ生まれて初めてできた妹分だった。
こいつも俺と似たように考えていたんだろう。同じ釜の飯を食ったってだけのクズを
しつこく気にかけてくれていた。自分の手でうっかり奈落に突き落とした兄貴分に、
ずっと負い目を感じていたんだろうな。
俺は両手を派手に打ち合わせて、シャイアに言った。
「反省会は終了」
泣き出しそうなシャイアも思わず顔を上げた。条件反射だ。昔のパーティの懐かしい
慣習だ。長テーブルでも円卓でも、晩飯でみんなが口に物を詰めながら今日の成果を
ああだこうだ言いまくる。喋り足りなかろうが関係なく、時間でリーダーのデラが手を打つ。
「
128
名無しさん
2025/09/28(日) 11:27:16.56 ID:7sQEeiv4
そう思ったが、こいつは無抵抗にあっさりひっくり返された。こいつの悲鳴を背に
俺は部屋に逃げ帰った。自分の身内がレイプされた気分だった。その日の夜に
何食わぬ顔で依頼をしにきたこいつに、俺は罵声を浴びせた。
『あばずれ』と言った俺に、こいつは平気な顔で『そうだよ、だってしょうがないじゃない』と
答えた。その日以来、俺達は罵声でしかやり取りをしなくなった。
今思えばこいつが正しかったんだろう。だからこいつは五体満足で面も綺麗なままで
いられた。サーシーのようにはならなかった。シャイアがくノ一を俺のところに連れて
きだしたのはここ一年かそこらの話だ。それまでこいつは選択を間違えてこなかった。
「今のはごめん。あたしがあんたに言っちゃあ、ただの皮肉――」
「俺も悪かった」
「あーもう、その話は良いって」
「ちゃんと話は最後まで聞けよ」
クソが。相変わらず堪え性がないなコイツ。何年かぶりの謝罪の言葉くらい言わせろ。
このままじゃお前の勝ち逃げじゃねえか。
「あー、なんて言ったら良いかな。その、あれだ、お前も苦労したんだな」
「なんだよ藪から棒に」
「いやあ女で、その顔で、よく生きてたなって」
「は?」
怒気を含んだ声でシャイアが言った。
「あ、いや、その顔でよく何年も冒険者やってましたねって」
129
名無しさん
2025/09/28(日) 11:31:12.25 ID:7sQEeiv4
「それでフローには、はあ、馬鹿みたいだけど、たまたま、偶然、宿屋のルームサービスに
どこかの誰かからお湯に変な薬を混ぜられたって答えてるから」
「それは――」
それはいくらなんでも無理だろ。まだ薬で頭おかしいまんまなんじゃないかこいつ。
酒場でギムレット頼んだら給仕が運んでいる間にオークの小便に変わりましたってくらい
信憑性のない話だぞ。
「じゃなんて言えって? あんた言える? あなたのお姉さんと頭がすっかりイカれる薬
使ってロイヤルスイートのベッドでパーティーしたかったって」
僕の負けです。もうやめて、事実で殴らないで。俺が悪かったって、ほんとうに。
「まあ、そういう事する奴らに心当たりがないわけじゃないから、全くの事実無根とは
言えないんだけど」
「なんだって?」
「この街じゃ生きてるだけで勝手に誰かに恨みを持たれるってこと。敵も作らず
生き抜くのは無理だよ」
俺の返答を待たず、シャイアは指を突きだして言った。
「とにかく、バレたくなけりゃ話し合わせろよ、いいな?」
「すんません……」
「それより、あんたは大丈夫なの?」
「へ? なにが」
シャイアが手を組み合わせて思慮深そうな顔を作った。
130
名無しさん
2025/09/28(日) 11:32:53.52 ID:7sQEeiv4
俺は渋い顔で肩をすくめて両手のひらを上にもちあげた。
「多分」
「たぶんって……」
「手遅れだと袋の中のタマがな、レンズ豆みたいにちっぽけに縮んで石みたいに固くなる」
シャイアはぎょっとした顔で俺の股間をそろそろと指差した。
「柔らかいよ。サイズもあるよ。クソが」
俺は股間に手を当てて吠えた。
「えっ、ああ、その、なんか、確信になることとかないの?」
俺は右の手で空気をかき回しながらやけくそ気味に言った。
「勃てば大丈夫だってよ!」
シャイアは口を横に引き絞って、俺の顔と股間を交互に見た。
「一昨日確認したから!」
俺の吠え声に、シャイアは顔を歪めながらいっそう体を引いた。
「うぇっ、ええ……」
「朝勃ちだよ! 生理現象なんだよ! 俺を汚物みたいな目で見んなよ!」
「怒鳴らないでよ。そんな目で見てないって。ああ、良かった、良かったね」
俺は両手で顔を覆った。恥ずかしくて死にそう。ちくしょう、なんで俺はこいつとこんな
会話をしなきゃいけないんだ。全部自分で蒔いた種だけどな! クソが!
俺は顔を覆っている手を無理やり下げられた。シャイアが下から俺の顔を
覗き込んでいた。鳶色の目には猿みたいな俺の顔が映っていた。
131
名無しさん
2025/09/28(日) 11:35:11.33 ID:7sQEeiv4
姉さんは目を合わせないで、話を続けた。
「昔話とかふざけた話ばっかり。あはは、ごめん。契約のこととか全然話せなかったよ」
「いいのよ」
「戻ろ。フローにも面談させなきゃ。あの子が言い出したんだから、
あの子に頑張ってもらうよ」
「ええそうね」
マグを持ったまま歩き出そうとする姉さんを、私は止めた。
「仲直りはできた?」
「さあ。でももう、普通に話すことはできるみたい。昔みたいに」
「ねえ、ちゃんと言ったの?」
「何が?」
「ちゃんと言ったほうが良いわよ。“あなたはわたしの”」
姉さんは眉をしかめ、人差し指を口の前において無声音をだした。
「言えるかよ」
「ねえ」
姉さんはカウンターにマグを置いて、大きく両腕を振った。
「ふーらーれーたっ。こっちが告白する前に、あいつから一方的に妹あつかいされた。
どう、これで満足?」
「それ、ふられたって言う? 姉さん、あなたがどれだけ尽くしてきたかって、
私が言ってあげようかしら。」
132
ここまで
2025/09/28(日) 11:48:35.45 ID:7sQEeiv4
SS書いてると色々わからんことが出てきて困ります
IBM-PC版で属性って悪から善に変化したっけとか
シナリオ4のワードナがやたらとDamien stones持ち歩いている理由とか
1982年のsoftlineでローアダムスが紹介してた
教師・教育者向けのWizardryを使用した継続教育コースの内容とか
ご存じの方、ご一報お願いします。
133
名無しさん@ピンキー
2025/09/30(火) 23:07:14.80 ID:q2tchSDT
暫く鑑定士の
134
名無しさん
2025/11/08(土) 09:55:04.41 ID:R0iXFR7/
フローレンスさんを送り出したシャイアさんが、わたしの向かいの三人掛け席の端に座る
と、リーダーは話を始めました。
「フローにはきちんと彼と話をつけるよう言ってあるの。しばらく戻ってこないでしょうから、
ゆっくり話しましょう」
わたしは不安を隠さずに言いました。
「今日の面談はシャイアさんだけってお話ですよね」
「名目上だけど私がこのパーティのリーダーよ。それに三人そろってあなたの話を聞く
チャンスはそんなにないの。彼の返事次第で、もう少し機会は増えるかもしれないけど」
わたしは思わず、リーダーの右手に座る小さな白いフード頭に目を移してしまいました。
リーダーは笑顔でわたしに言いました。
「まだあなたが会いたい『あの人』じゃないわ」
わたしは再びリーダーの隣りにいる彼女を見ました。さっきまで蓋つきタンカード(木製
ジョッキ)に鼻まで入れて飲み物に息を吹き込んで遊んでいた彼女は、リーダーの右肘に
空のタンカードを押し付けていました。
「あなたが考えてることはわかるわ。でもね、そのうちあなたも
『こっちのほうがまだマシ』って思うようになるから」
「まだちゃんとお礼も言えてないんです」
一向に反応してくれないリーダーにしびれを切らしたモルグさんは、リーダーに向かって、
舌を出してリップロールをしました。リーダーは意に介さずわたしに笑顔で話しかけました。
「目障りでしょ。でもそれなりの場数は踏んでいるし、それなりの動きならできるの」
135
名無しさん
2025/11/08(土) 09:58:02.56 ID:R0iXFR7/
シャイアさんは、リーダーから、空のタンカードを受け取って、中身をわたしに見せました。
タンカードの底には泥が溜まっていて、飲み口は、唇の形の黒い汚れが跡になっていました。
「タダの水たのんだら、これがくるよ」
わたしは言葉に詰まって、しどろもどろに答えました。
「あ、あ、ええ、ええっと、酔わない飲み物があれば」
リーダーは首をかしげて言いました。
「ちょっと無理な相談ね。わたしだって、たまにしか飲まないの。薬草のお茶を飲むのは
大切な仕事の前くらいよ。だけどあなたの注文にはできるだけ答えてあげる。私が好きに
頼むけどいい?」
「お願いします」
自分でも悲しくなるほど気弱な声で、わたしは答えました。
大股で来たドワーフ族の給仕が、びっくりするほど大きな声で注文を取りました。
「いつもの豚の餌だろ。今日は六人前かい」
リーダーが答えました。
「こっちの三人分だけ。そこの三人は普通のモーニングね」
リーダーはわたしの座る側の席を人差し指で囲いながら言うと、シャイアさんが
手を降って訂正しました。
「不味いほう四人前にして」
「彼はお客さんよ」
「あいつのことは冒険者として扱って。それにあいつ“簡易寝台”の住人だよ」
136
名無しさん
2025/11/08(土) 10:00:46.50 ID:R0iXFR7/
「はいよ、いつものリキュールの匂いだけする濁り水ね。水飲みたきゃ普通に頼みな」
「だって高すぎなのよ」
給仕は遠慮ない豪快な笑い声をあげました。
「すぐに作らせる」
給仕は体を揺らしながらカウンターに戻っていきました。わたしは無意識に彼女の
後姿をぼうっと眺めていました。
「ああいう女(ひと)になりたい?」
振り向くと、肘をついたシャイアさんがわたしに言いました。
「わたしでも……なれるんです?」
シャイアさんは口を結んで目をくるりと回すと、「あなたの選択を尊重します」と言いました。
横ではリーダーがシャイアさんのほうへ少し顔を背けて口元を隠していました。ほんの少し
ですが、わたしは彼女たちに、どういう人種として見られたのか自覚しました。モルグさんは
じっと動かず、何も言いませんでしたが、小さい唇を一文字に引いたように見えました。
フードのせいで口元以外の表情は見えません。今の彼女に、わたしたちの会話が
理解できたとは到底思えませんでしたが、彼女だけはわたしの考えていることを
見透かしているような気がしました。
給仕がすぐに戻ってきて、両手に抱えた飲み物を手早く配りました。すると、
タンカードを受け取ったモルグさんが、なにか言いたげにリーダーの肘を引きました。
「ムー、こんどは何?」
「あのね、あのね」
137
名無しさん
2025/11/08(土) 10:03:02.22 ID:R0iXFR7/
心臓の鼓動が早くなるのを感じました。真顔で両手を組み合せた熟練の
古参兵たち向かって、わたしは拙い言葉で自分の未熟な冒険譚を語り始めました。
* * *
シャイア……なんでお前行っちゃうの? 今だけ帰ってきてくれ。頼む。この人と
二人っきりは無理だって。ああ、彼女の顔なんて直視できるわけねえ。ここは最早、
親父から伝授された必殺技、DOGEZAを披露するしかねえ。そのまま上から踏み殺される
のは覚悟のうえでだ。吐きそう。ちくしょう、やるしかねえ。
俺は覚悟を決めて、両手から顔を離し頭を下げた。
「この度は本当に申しわけ――」
俺は肩を力強く掴まれた。やばい。駄目だよ。無理だったじゃんか、シャイア。
あんなしょうもねえ嘘に騙されてくれる人類がいるわきゃねえんだよ。
「なぜ謝る。あなたは被害者だろう?」
「ふぇあ?」
うそだろ。騙される人類いた。俺は思わず顔を上げた。
妹さんは紋章なしの丈の短いサーコートを長袖のワンピースの上から着ていた。
ソードポーチに短刀と銀の篭手をぶら下げ、腕と足を組み、裾から突き出した脚には
革のブーツを履いていた。
魔力こそ宿っていないが、紋章なしのサーコートを着た者には意味がある。訓練場で
138
名無しさん
2025/11/08(土) 10:06:27.00 ID:R0iXFR7/
「だ、誰からそんな戯言を吹き込まれたんです」
怪訝そうな顔で、妹さんは言った。
「誰からも何も聞いてない」
「じゃ、じゃあ、いつそれを」
「あなたが姉さんと迷宮に入ってきたときから。見てすぐ分かった。誰だって見れば
わかるわ。あれでわからないのなんて、姉さんみたいな鈍い人だけよ」
俺は妹さんの目を見ながら、情けない声で言った。
「どうか、どうかこのことだけは、内密に。あなたのお姉さんにだけは、
どうか言わないでください。こんなこと知られたら、あの人は俺のところに二度と来なくなる」
俺の耳に響いた自分の声は、死にかけの乞食の最期の願いのようだった。
「鑑定品の配達なら、わたしがあなたのところに届ける」
「そうじゃないんです。あの人の声が聞けなくなるのが嫌だったんです」
へへへ、クソあああああ! 言っちまったよ。よりによって、彼女の妹に俺の性癖を
バラしちまった。眼の前の、彼女に姿だけ似た人はため息をついて、額に手を当てた。
「ああ、いっつもそう、昔からずっと。あの人ずるいのよ。わたしが見つけた、って思ったら、
もうあの人が手に持ってるの。なんでもそう。崖の下にあったグリフォンの卵だって、
川で見つけた光る石だって、もっと親しくなりたい人だって」
そう言うと、妹さんは俺の顔を見た。
「姉さんより鈍い人はじめてみた」
「あ、の、それってどういう意味」
139
名無しさん
2025/11/08(土) 10:09:02.79 ID:R0iXFR7/
頭の中に氷を突っ込まれた気がした。へっ、ちょっと見ない間に、あの親父の潔癖症は
かなり進行したらしい。昔は個室でも色々できたんだがな。副作用軽めのお薬ファックは
お咎めなしで、ちょっとした取引でも使えた。かわりに馬小屋は清潔なもんだった。
「その話をされた時に、わたし変な顔してたんじゃないかな。あなたと寝る前なら、
繊細すぎて基準が理解できなかったと思う。あれはわたしへの脅迫だと思った。
話を聞いてる間も、わたしのほうが捕まるんじゃないかって、ずっと怯えてたもの。
でも、あの人は許してくれた。かわりに交換条件を持ち出された。仕事を依頼されたの。
そのうちの一つが、姉さんを説得すること。初めて知ったけど、宿屋には部屋の裏に、
従業員用のバックルームがあるのね。あの部屋でのことは最初から終わりまで、
ずっと監視されてた」
ハハッなるほどな。相当なことまで話をしてもらったようだ。だけど、一体あの親父は、どこまで妹さんに話したんだろうか。
「もう、顔から火が出そう」
言葉とは裏腹に、彼女は涼しい顔をしていた。
「あの時何があったのか教えてあげる。シャイアがあなたを気絶させたら、モルグが
シャイアにしがみついて泣きだした。ご主人様に怒られる、シャイアが殺されちゃうって。
シャイアはシャイアで、この人はご主人様じゃない、なんとかかんとか、途中から
何を言ってるかわからなかったわ。シャイアが本当に酔っぱらったの、はじめてみた。
あの人、酔うとすごい訛るのね。それに、モルグのことを『ムー』って呼ばないのも滅多に
ないのよ。あの人がモルグをそうやって呼ぶのは、絶対に命令を聞いてほしいときだけ。
二人とも薬で完全に酔っ払っていた。LATUMOFISを一回唱えたわたしは、トイレまで
140
名無しさん
2025/11/08(土) 10:11:27.43 ID:R0iXFR7/
「俺が窓をぶっ壊したのに?」
妹さんはうなづいた。
「喜んでた。施工不良が見つかって、保証させることができるって。修理屋には
念入りに調査をさせてた。それに、わたし、ワクワクしちゃった。
本物のシークレットエージェントに会えたんだもの」
彼女の言葉に、胃が絞られるような錯覚に陥った。それは、つまり、俺の話を、
かなり詳しくされたってことか。やっぱり罠だ。そうなんだろ、きっと。
「その話が本当なら、シャイアの頭にあったあの痕は?」
妹さんは歯を見せて笑った。
「よかった。気づいてくれたのね。認可医が仕組んでくれたのよ。
『そいつが目のいい司教なら、これに気がつくはずだ』って。
髪に細い剃りを入れて、医療用インクで文字を書いただけ」
妹さんは真面目な顔になった。
「宿屋の従業員は戦地帰りの兵士が多いのね。CALFOで二人の体の中身を覗いたら、
異物が見つかった。それで訓練場から、ちゃんとした医者を呼んだ。手伝いの治療師や
技術士もね。中にあるものをどうにかしたかったから。おかげで、姉さんの手が変だって
こともわかった。あなた、CALFO使える?」
俺は苦笑いした。
「いちおう」
「それで人の体って見たことある?」
141
名無しさん
2025/11/08(土) 10:16:04.35 ID:R0iXFR7/
「呪いがつくと、ついた部分が弱くなる」
それでホリーは痩せこけた。あいつはまともに飯を噛めなくなった。痛みがひいた後も、
歯肉が疼くような気がすると言ってたな。今食ってるものがオートか砂かわからない。
そう言ってた。顎に兜をくっつけられたあの日から、あいつの声からは、力が感じられなく
なっていった。元とはいえスペルユーザーを自負しているのなら、あの拷問は堪えただろう。
「そういう連中はベッドバグや鼠を常に警戒してます。噛まれると普通の腫れ方じゃ
済まない。だから酒場の糞不味い飯を常食するようになる。あの薬草臭い飯の効果は
虫除けだけじゃない。鼠も近寄らなくなる」
俺も食ってる。安いから。一週間くらい食うのサボってたがな。
「だから姉さんたち、いつもあれを食べてたのね」
俺は調子の狂った声をあげた。
「ロイヤルスイートに鼠や蚤は出ないでしょう」
「あの三人はいつも馬小屋。部屋の名義は姉さんだけど、あの部屋はわたししか
使ってない。交代でいつも三人の内、一人は見張ってる。フラウドにもそうしてる。
わたしたちが眠るまでの間だけね。モルグが見張りの時はフラウドと三人そろって、
部屋で、カードや小さな駒を使ったごっこ遊びをやったりしてる。
ミニチュア・ジャイアント・スペース・フロッグといっしょにヴァンパイアやワーラットや
リザードマンから街を守るゲームは何度やったか覚えてない。あの人、気にいった
方法じゃないと納得しないし、前と同じ方法を使っちゃだめだって言うから、いつも
頭を使ってる。あの部屋はわたしの軟禁場所兼倉庫よ。前は姉さんが自作の
142
名無しさん
2025/11/08(土) 10:20:11.59 ID:R0iXFR7/
「ええ、ちゃんと、とってあるんだって。そうじゃなきゃ交渉できないでしょ。あの男は
酷いやつよ。シャイアには自分のところに戻って来てもらいたいし、モルグには
黙っていてもらいたいらしいわね。モルグには保険まで賭けてた。あの人の友達を
ずっと『とっておいて』あるみたいよ」
「ラッツィを? 生きてるんですか?」
「あなた、なんでも知ってるのね」
ああああ、しまった、口滑らせた。俺はしかたなく喋った。
「本人にあったことがあるんです。あなたの仲間は昔、とんでもないやつに捕まった。
そいつは常習犯で、あなたの仲間の前に、そのラッツィというホビットの女性を
捕まえていたんです。そいつはとっても」
「性根の腐った意地悪な“お兄ちゃん”?」
俺は小さくうなずいて答えた。
「あなたも、なんでも知ってる」
「モルグから聞いたわ。彼とは同郷。彼はわたしの実家の隣りに住んでいた。それほど
驚きじゃなかった。わたしは姉さんより、彼には近くなかったから。ひょっとしたら、
姉さんよりわたしのほうが彼に詳しいかもしれない。遠くで眺めている方が、間近で
見るより、よく見えることもあるのよ。姉さんには黙ってたものもあるから。
彼に兄弟はいなかったけど、隣りに住んでたわたしたち姉妹でよく遊んだ。
インガによく怒鳴られた。あまり迷惑をかけるなって」
「あの、インガってどなたです?」
143
名無しさん
2025/11/08(土) 10:29:52.08 ID:R0iXFR7/
「金曜だけはCANTの人達にも使わせてあげてるらしいのよ。普段から鬱憤が溜まってる
から、発散させないと、カタギに手を出すかもしれないからだって。馬小屋限定でね。
そういう人たちのために、品質の良い薬も取り扱ってるって」
「よく、ご存知ですね」
「従業員から教えてもらった」
妹さんは強い口調で付け足した。
「モルグは酒場にいる時だって、わざわざあの泥だらけの水飲んでるくらいよ。酔っ払って、
うっかり喋るのを怖がっている。あの怖いニンジャに会いたくないの。お前は悪人だって
言われるのが怖いのよ。あなたも知ってるでしょ。酒場の永住者を自称している、あの英雄」
「ホークウインド?」
妹さんはうなずいた。
「あの人がレベル100なんて嘘なんじゃない? いくらなんでも強すぎる。街に住んでる
人間どころか、誰も勝てないわよ。あんなの」
俺は引きつった笑顔で答えた。
「彼は英雄ですから。心からここの大君主様とカドルト様に忠誠を誓っている。それが
最初にアミュレットを持ち帰った男の特権です。あの人が探索者だった頃の迷宮は、
定石すらなかった茨の道なんだ。彼が通った道は、今でも冒険者が使える
深い轍になっている。彼はこの魔法の街に愛されたんです」
「やけにあの人の肩を持つじゃない」
「彼に助けられましたから」
144
名無しさん
2025/11/08(土) 10:32:56.34 ID:R0iXFR7/
「いい話ね」
「ええ。それで、他になにか、ご質問はありますか、告解士様?」
「なにそれ、まるでわたしが尋問官みたいな言い方」
「あなたはシークレットエージェントじゃないんですか?」
俺は思わず言ってしまった。妹さんは、テーブルに置いた握り合わせた手を奥に倒した。
「スカウトされた。モルグも一緒に。一時的にだけど。諜報員になれるなんて夢みたいな
話よ。姉さんだってなりたがってたの。調査中は恋人を作るなって言われて断ろうかと
思ったけど、こう言われたの。それなら相手もこちら側に引き込めば良いって。
そうしてる人たちもたくさんいるらしいから。わたしはあなたをこちら側に引き込みたいの」
俺は恐怖で引きつった顔をしたかもしれない。
「俺のこと、どこまで知ってます?」
「元司教の冒険者。もったいない人」
「冗談はやめてください。本気で訊いてるんです」
「どう言ったら良いの。あなたは自分のことを、迷宮で出た正体不明のアイテムの始末を
してくれる鑑定士って言わせたいの?」
「それはいい、それは真っ当なやつらです。俺のあだ名知ってます?
“どんづまりの腐った畜生野郎”。俺の近所でも、なんで俺がそんな名前で呼ばれてるのか
は本当の古参しか知らない。新しく来た連中は、俺を勘違いしてくれている。俺の部屋には
いつも、毒消しがたくさんある。飲んだくれや薬中ですら、あんなに病的な量を抱える
やつはいない」
145
名無しさん
2025/11/08(土) 10:36:22.91 ID:R0iXFR7/
「キースは、時々俺の様子を見に来た。あいつなりに、俺を元気づけようとしてくれては
いた。だから『楽しくなるような物』を持ってきた。そういう時は、キースも俺が悪態を
ついたって怒らない。俺は……俺はいつも毒消しを買いこんでいた。笑顔でキースを
送り出した後で、急いで毒消しを飲んだ。飲んで、ベッドの中で怯えて泣いてました。
もう来ないでくれって。でも、言えなかった。最初のうちは大したことのない物が多かった。
ただのハッパとかそのへんで簡単に手に入れられる量産品の薬。それで、俺はある時に気がついた。
これ、前のと違うな。やると確信する。これは違う。それで、キースに
聞いたんです。あいつ驚いてました。値段は同じ。キースは何種類も買ってくるように
なった。どこ産の何だ、値段はいくらだって、当時は全部言えました。今はもう何も覚えていない」
“嘘だ。今でも匂いを嗅ぐと価格まではっきり思い出すだろう?”
俺は頭の賢い部分の声を無視した。
「最初は、遊びだったんです。キースは、そういうのを俺に見分けさせるようになった。
質の割に値段が安いのを探した。そっくりで、上等品にすり替えてもわからないような
やつ。普段は俺の部屋です。そのうち、俺はたまに市場に連れて行かれるようになった」
ボルタックには世話になった。あんなにしょっちゅう、大量に毒消しを買い込む俺に、
何も言わなかった。
「混ぜたり、加工したものもあった。どこまで誤魔化しがきくのか、俺に見分けさせた。
どこまで安い混ぜものなら許されるかとか、最初はそうだった。俺に薬学の知識は
ほとんどないんです。本当に」
教則本はすべて焼き捨てた。頭が割れるまで酒を飲んで、壁で頭を殴ってすべて流そうと
146
名無しさん
2025/11/08(土) 10:39:29.89 ID:R0iXFR7/
「あいつは、キースは“成果品”を持ってくるようになった。お前の協力でこんな良いものが
出来た。当時、俺は簡易寝台の相部屋にいたんです。キースが来ると、みんな察して部屋
から出ていく。誰かに残ってほしかったし、助けてほしかった。俺はあいつとの関わりを減ら
したくて、必死に営業しました、普通の鑑定士として。まだ俺が司教だった頃の先輩たちに
も協力してもらって、お客も増えた。そっちで儲けた金で宿代を払って、飯を食って、
貯金した。キースは、時々やってくる災害程度にまでなった。俺にとっては、薬で儲ける
のはただのクソ野郎のお遊び相手で、ちゃんとした鑑定は仕事だって思ってた。だから
俺は、仕事を、するために、エコノミールームに、引っ越しました。真っ当な客のために。
俺のことを真っ当な鑑定士だと思ってくれる客のためにね」
息が荒くなっているのを感じた。深呼吸をして、俺は壁に向かって喋った。
「俺が見た最後の成果品が、あなたの仲間です」
不意に背中に手が回ったような気がして、俺は反射的に払いのけた。その拍子に、
俺は妹さんと向かい合いになった。
「すみません」
「いいの。この話、他に知ってる人っている?」
「何人かいるんじゃないんですか」
「姉さんもその一人?」
「わからないんです」
「どういうこと?」
俺は頭の中の禁書棚にしまわれた、畜生野郎リストのページをめくった。
147
名無しさん
2025/11/08(土) 10:42:14.49 ID:R0iXFR7/
「あいつは商売が下手だった。儲けすぎようとした。どう考えても無理な品を一級品だと
偽って流して、一度はうまくいった。二度目はなかった。俺はもうやめたかった。だから、
会いたくはなかったけど、キースを訪ねて、この商売を辞めたいと言った。あっさり了承を
貰えて、驚きましたよ。なんだかすごい機嫌が良かった。俺はあの小悪党にも同じように
言いました。これで店じまいだ。そうしたらあの小悪党は、ああ、あの野郎」
俺は左右の目を両手で覆って伸びをした。
「あの野郎、俺が言ったことが気に食わなかった。負けを取り返してなかったから。それに
自分のことをキースにバラされると思ったらしい。キースは元から、あいつには期待して
いなかったし、やらかすと踏んでいたのに。あいつは俺に制裁をした。あいつは俺より
歳が上で、背も高い。力も強い。レベルもあいつのほうが上。殴られて、縛られて、
“下から”薬をぶち込まれました」
俺は両手を顔から離して、妹さんを見た。
「すみません、思い出させたら、謝ります」
「あなたがやったことじゃないでしょ。でも、あなたに埋め合わせしてもらう」
俺は情けない笑いを作った。
「そこからはもうほとんど覚えてないです。この記憶だって、ゆっくり時間をかけて思い
出していったんです。気がついたら俺は、物置みたいな場所にいました。シーズンになると
雨漏りが酷くてかび臭くなる部屋。そこで俺は、鑑定をしていました。ほとんど機械的に。
あのへんの記憶は本当に曖昧なんです。俺はそこで、少ない人数相手に商売をやって
いた。知らない客もいました。客がなんか言ってて、俺もなんか言ってる。客からすれば、
148
名無しさん
2025/11/08(土) 10:48:41.12 ID:R0iXFR7/
「背中の声の主がスペルユーザーじゃないのはすぐ分かった。声にクセがついてない。
俺は迷宮で呪文をほとんど唱えなかったから、人の声をよく聞いていた。だからわかるん
です。あなたの姉さんはスペルユーザーに向いている。声に魔力がある。もったいないと
思いました」
「どれくらい、そういう期間があったのかしら」
「それもよくわからないんです。世間話をしていた気がする。あの人はあまり、自分自身の
ことは話さなかった。仲間の自慢くらい。後ろで喋ってる女性の顔もわからなかったけど、
その仲間に嫉妬してました。幸運な野郎だ。その相手がシャイアだって知って、俺はホッと
しましたし、ムカつきました。シャイアはエルフの女は大嫌いだって公言してたんです。
訓練生だったころに、あいつ“女性関係”で揉めたから」
「シャイアが? あの人、女でしょ」
俺は口の端を釣り上げて、顔を妹さんに向けた。
「そうですよ。相手はそういう女で、シャイアはそうじゃなかった。ただ、助けてくれたのも
エルフの女だった。あいつは最初、その英雄を男だと勘違いしてた。冷たくてぶっきらぼう
で無口。英雄さんが女だって分かってから、あいつは顔を見れなくなった。手ばっかりみて
たらしい。一緒に冒険したかったってよく愚痴ってましたね」
妹さんが片手で目を隠して、泣いているのか笑っているのかわからない息を吐き出した。
「大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。続けて」
妹さんは含み笑いをしながら顔を上げた。俺は再び話し始めた。
149
名無しさん
2025/11/08(土) 10:51:14.37 ID:R0iXFR7/
「なんでこの人は、こんな理不尽な目にあわされて怒らないのか不思議でした。
あの人は自分に落ち度があると考えていた。あなたも言ってましたね、善の戒律者の
悪い癖です。あの人は俺と違って、ゼロからもう一度這い上がった。借金を支払うために
“祈祷師”までやっていたんだ。あの人はだんだん痩せ細っていって、標準くらいの目方で
落ち着いていた。いたって普通のエルフの男と同じくらいに。ある日、いつもみたいに
宿屋の近くにある汚い飯屋で一緒に飯を食っていたら、先輩から気になることを言われ
たんです。どうやら、仕事でなにかあったらしい。その、蒸発した客を見たかもしれ
ないって。その時に理由も話してもらった。だから俺は――」
言葉が喉に引っかかった。妹さんは告解士じゃない。わかっている。頭の何処かが
どうしても彼女に知らせるべきだと囁いた。俺はその誘惑に屈した。
「俺はいつも飯を奢ってくれて、愚痴を聞いてくれた恩人に、クソッタレな元仲間のことや
そいつの所業を話した。話すべきじゃなかったと後悔した時はもう遅かった。先輩は
その日を境に急激にやつれていった。俺は元仲間のクソ野郎や、その間抜けな客や、
俺自身に腹が立ちました。戦場行きは、保険会社から言われた借金返済の代替案
ですよ。彼の稼ぎは保険会社に振り込まれる。この世で生きるには運が全てです。
才能もあって努力を怠らない人でもそうなる」
俺は再び壁を向いた。
「あなたのお姉さんのことに話を戻しましょうか。俺は後ろの声を聞いているうちに、
だんだん腹がたってきたんです。俺はいま仕事中なんだ。気が散る。頼むから黙っていて
くれ。あなたは鑑定で一番緊張する瞬間はいつだかご存知ですか」
150
名無しさん
2025/11/08(土) 13:29:02.42 ID:R0iXFR7/
「腹は立たなくなりました。その、ええ。かわりに……彼女の姿にぶち抜かれました」
妹さんは軽く握った手を目に当てて苦笑いをした。
「どうです。あなたのお姉さんは、俺みたいなカスの所業とは無関係ですよ。ただ勝手に
俺が惚れただけ」
妹さんは赤みのさした顔で言った。
「どうかしらね。あなた、顔真っ赤よ。なにか飲んだほうが良いわ」
「ああ、すみません。あの、飲みたいものがあれば奢りますよ」
「もうきてるわ」
妹さんは俺にパイントジョッキを押し付けた。
「あなたはエール嫌い?」
「いいえ」
俺は申し訳なさそうにジョッキを受け取った。俺が思っていたより、この人はずっと
世慣れしている。妹さんはジョッキを掲げて言った。
「長い話をしてくれてありがとう。お返しに、わたしからも話すわ」
「ええ、でも、お時間は大丈夫ですか?」
「姉さんの方もまだ時間がかかるみたい。ただ、覚悟をしてほしいわ。あなたは聴いて
後悔するかもしれない」
「ハハ、いまさら後悔することなんてありませんよ。俺の人生なんてそんなもんです」
俺はそう言うと、妹さんに倣ってジョッキを掲げた。
151
以上
2025/11/08(土) 22:30:56.03 ID:R0iXFR7/
とりあえずここまで
152
名無しさん@ピンキー
2025/11/08(土) 23:06:05.05 ID:LOeDfkg3
Wi乙ardry
153
名無しさん@ピンキー
2025/11/10(月) 10:30:50.00 ID:/D0qz5dE
乙です
鑑定士は自己評価がホント低いなあ…
彼がもっと自分に自信を持てていたら話がこんなにこじれる事もなかったと思う
>俺は振り向きました。それではじめて彼女の姿をはっきりと見ました
>かわりに……彼女の姿にぶち抜かれました
この時にお姉さんの全裸に見惚れたって事でOK?
裸といえば彼女の全裸忍者の活躍を拝見できてないので次回はそういった濃厚な露出描写を期待!
154
名無しさん@ピンキー
2025/11/11(火) 21:07:43.07 ID:C7/ii326
いよいよ次回はくノ一さんの過去語りですね
彼女の過去は鑑定士・番外編 E-NIN+N-THIで一部語られていました
「でもね、地下で徘徊する化け物よりも、もっと効率よく稼げる化け物がいることに気がついたの。
馬鹿みたいなこんな格好をすればいくらでもよってきたわ」
上の文章はその話のくノ一さんの台詞の抜粋ですが、
上の台詞の通りいつ頃忍者になり全裸になるようになったのも語られるんですかね
全裸で敵を屠れるほどの強さに至るまで、手のハンデ込みでは相当過酷な道だったのでしょう
同業者達を魅了する程の美しさを保ちながらも圧倒的な強さを両立させる……
妹さんから"本当のくノ一"の姿を教えられた事による心境の変化もお待ちしております
最後鑑定士は素直に励ましたり評価してくれる人達がいてくれたらここまで卑屈にはならなかったと思います
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保管庫
2025/11/15(土) 15:47:14.13 ID:wPbUNBo5
>>152職人様いつもSSの投下をお疲れ様です。
保管庫では今月初頭からアクセスできない状態が続いておりましたが、利用していたドメイン(DDNS)がサービス終了してしまった為です。
職人様SS保管の更新と併せて新ドメインへと変わりましたので、>>1の記述とは変わってしまいしたが今後皆様にありましては保管庫には、
http://ascii2d.f5.si/user/wiz/wizsstop.html のURLにてアクセス戴くようお願いします。
なおミラーサイトのURLは2022年1月より変更ありません。
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名無しさん@ピンキー
2025/12/18(木) 21:20:27.80 ID:UpBL+II6
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名無しさん@ピンキー
2025/12/19(金) 01:17:36.50 ID:ceD+Bqyl
結界的な物があって出られないとか?
あるいは出ること自体は容易でも、冒険者に袋叩きにされるオチしか無いとかで尻込みしてるとか